イタコが集う、青森陸奥の恐山大祭

イタコが集う、青森陸奥の恐山大祭

青森県の陸奥下北半島(むつ市)の恐山では、夏と秋に地元の霊媒師である「イタコ」が集合するお祭りが行われています。毎年7月20~24日に行われるお祭りを「大祭」、10月の三連休に行われるお祭りは「秋詣り」と呼ばれています。その名の通り7月に行われる大祭は規模が大きく、毎年たくさんの人が「イタコの口寄せ」を体験しに訪れます。2011年は東日本大震災の影響で一時的に来場者が半数に減ってしまったそうですが、翌2012年には平均来場者数を上回る人で賑わったといいます。震災で亡くなった方々を供養しに訪れた人も多数いらっしゃったことでしょう。

皆さんはもうご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、「イタコ」とは青森県、下北半島周辺を発祥とする霊媒師。古くから地域の人たちに神様のような存在として崇められ「イタコさん」と“さん”付けで呼ばれる、親しみ深くかつ尊敬される人たちです。彼らの本拠地とも修行地とも言われているのが、青森県下北半島の恐山。地域の人は古くから「死んだらお山(=恐山)さ行ぐだ」と、恐山を霊界になぞらえていました。

イタコが行うのは主に降霊術。亡くなった身内や友人などの霊を呼び、その魂を自らの身体に乗り移らせて相談者と交信を行うという鑑定のスタイルです。相談者は呼びたい故人の名前と命日をイタコに告げ、鑑定が始まります。亡くなった親兄弟、パートナー、友人などの魂が降りてきて、イタコの身体を通して会話をする・・・中には小さな子どもを亡くした若いお父さん、お母さんの姿もあります。

お祭りのさいには恐山全体でこのような鑑定が行われています。相談者がそれぞれに死者の霊の存在を感じ、喜び、感動し、涙する姿を至るところで見れば恐山が「パワースポット」「霊場」などと呼ばれていることに深く納得がいきます。

恐山は日本三大霊山、霊場、霊地に指定された厳かな地域。ちなみに三霊山とは、ほかに高野山と比叡山、霊場は白山と立山、霊地は館山と河原毛です。恐山は古くは山でしたが噴火を繰り返していまは温泉のある景勝地となっています。硫黄臭とけむり漂う雰囲気は厳かだけれども優しさに満ちあふれ、神様が住む場所ってこんな風だろうかという気持ちになります。本家青森のイタコとお隣・秋田県のイタコはそれぞれ「津軽のイタコの習俗」「羽後のイタコの習俗」として国の選択無形民俗文化財の指定を受けています。国から指定された習俗を学んだ人たちに鑑定を受ける時間は、感激もひとしおでしょう。夏祭りと秋詣での期間中は亡くなった人たちに手向ける供物や花などが恐山全体に備えられ、普段は静かな恐山も、賑やかな雰囲気に包まれます。

イタコはもともと目の見えない、あるいは視力の弱い女性の職業とされていました。そのような女性たちのなかで適性のある人がスカウトされる、または志願してプロのイタコの門を叩くといった形で、長きにわたって降霊術を中心とした伝統は脈々と受け継がれ、今に至っています。現在では視力がある人も、また他地域出身の人もイタコの修行をするようになり、人気のあるイタコなかには盲目でも、下北出身でもない人も複数いるそうです。

これらのイタコたちが一堂に会したイタコ祭りが年に2回、イタコのメッカ・恐山で開催されるわけですが、大祭には全国からたくさんの人々がイタコに会いに来るため相当に混雑します。開催時間の6:00から行列しても、人気のあるイタコは3~4時間待ってやっと鑑定してもらえるということです。一番人気のイタコになると一日並んでもあぶれる人がいるほど。秋祭りでも2時間待ちはザラ、というくらいの盛況ぶりだそう。この「イタコ祭り」は予約ができないので、鑑定してもらいたければ現地へ足を運び、並んで待つほかはありません。鑑定料などは特に定められていませんが、相談者は「お礼」や「志(こころざし)」と称して3000円程度の現金を包んで渡すのが一般的です。

夏場と初秋のお祭りですから、長時間並んで鑑定を受けたあとは心の充実を得られる反面、身体は疲労し、汗まみれになっていることでしょう。境内には4つの温泉があり、参拝者ならば自由に入浴することができます。ここで身体の疲れを癒すのもまた一興です。お祭り期間中でなくとも、恐山には週末を中心にイタコのいる日があるそう。イタコ祭りに関する詳しい情報は、地域自治体のホームページなどに詳しく書かれています。実際に行ってみたいという方は調べてみてください。

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