イタコ祭りと現代のイタコ

イタコ祭りと現代のイタコ

イタコの歴史は古く、その昔は盲目の女性が選択できる数少ない職業のひとつでした。経文の暗記や険しい修行などを経なければならないため、目指す人全てがプロのイタコになれるわけではありません。また古くは一方で神的存在としてあがめられながらも、もう一方では社会的弱者と目され、差別・迫害の対象ともなり、イタコになろうとする人は時代とともに激減しました。

しかし現代、世の中が霊力をもつイタコのような存在を好意的に受け入れるようになり、日陰の存在とも言える状態にあった彼女たちが、全国的に脚光を浴びるようになりました。地域の民間信仰の対象として存在していたイタコが日本全国、さらには海外からも相談者を受入れるようになってきたのです。そのような時代の流れに応じて、若い人がイタコ修行の門を叩くようになりました。彼女たちは盲目ではありません。普通の健康な若い女性が、敢えてイタコの道を選んでいるのです。たくさんの仕事が選べる状態にある彼女たちが、強く「イタコになりたい」と志願してくるわけですから、優秀なイタコに成長している若い女性も出てきています。そのようなイタコ志願者はまだまだ少数ですが、衰退の一途をたどっていたイタコ界にとっては画期的なことです。

鑑定を受けた人に聞くと、こんなことを言う人が多くあります。「いわゆる昔ながらのイタコは盲目で、初めて耳にするような東北訛りを話し、高齢者ということもあり本当に神がかって見えるが、若いイタコは盲目ではないのでアイコンタクトがとれ、話し方もはっきりして、イタコとしての側面は守りながらも信頼できるカウンセラーのように思える」。相談者も若い彼女たちを歓迎し、新しいスタイルのイタコとして受入れているようです。イタコ祭りのさいも、このような若いイタコが人気を集めているともいわれます。時代とともにイタコに求めるニーズも変わってきたのかもしれません。彼女たちの活動は精力的です。地元の公民館などで鑑定会を催したり、自宅を鑑定サロンにして相談者を招いたり、最近は電話占いで活躍するイタコも出てきました。

恐山のイタコ祭りは年に2度ですが、東北、とくに青森県内ではこうした若いイタコの対面鑑定を受けられるチャンスは意外に多いようです。青森県では恐山イタコ祭のほか、川倉賽の河原地蔵尊大祭(五所川原市)、そして法運寺いだこ祭り(おいらせ町)などでもイタコの口寄せを体験することができます。また、恐山周辺は近年観光地としても整備されはじめています。県や市などもその活動を全国に紹介し、バックアップする姿勢でいるようです。青森県や八戸市、むつ市の観光情報サイトを覗けば、イタコと関連イベントの情報がたくさん載っています。地域の人のためだけに存在し、静かに活動していたイタコ。その持てる力が今、皆の知るところとなりました。

東北の一地方で、神の媒介者として黙々と励んでいた彼女たちはいま、電話やインターネットなどさまざまなツールを通して世界中にその力を発揮しようとしています。苦難の歴史を経て受け継がれた恐山のイタコ。その伝統は途絶える直前にして、活躍の場を世界に移し、現代の人々の心を癒す重要な存在として再出発しはじめたようです。イタコに限らず、沖縄のユタや韓国のムーダン、イタリアのコルヌコピアなど、シャーマン的な存在は世界各地にみられます。これからは相談者が目的や好みに応じ、世界中のシャーマンの誰から鑑定を受けるか選べる時代になっていくのでしょうか。

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